病気の症状・治療を簡単解説
滲出性中耳炎
滲出性中耳炎
鼓膜の裏に滲出液が溜まる病気です。急性中耳炎と違い菌やウイルスは主役ではありません。滲出性中耳炎の原因は中耳腔の「陰圧」の継続です。
外気圧(ほぼ1気圧)より中耳腔の気圧が低い状態が長い期間続くと中耳腔の粘膜から透明に近い液体(滲出液)が徐々に出てきてやがて中耳腔が満杯になります。この状態では鼓膜が圧迫されてしまうため聞こえにくかったり、耳がつまった感じが生じます。
では陰圧の原因は何かというと「耳管」の機能が悪いと言うことになります。耳管は中耳腔と鼻の奥の空間(上咽頭または鼻咽腔と呼ばれます)を繋いでいて中耳腔に常に必要な空気を供給します。これが鼻水や耳管の内腔の粘膜の腫れでつまってしまうと必要な空気が中耳腔に供給されなくなって中耳腔が「窒息状態」になるわけです。
診断は?
滲出性中耳炎の診断はまず鼓膜の観察です。鼓膜の裏に滲出液があると鼓膜は半透明なので滲出液で満杯でなければ液面や気泡が見えます。満杯の場合には鼓膜全体は黄色っぽく、鼓膜の奥のさらに向こう側の骨の壁が(鼓室壁)見えなくなります。
ティンパノメトリーという検査器械も非常に有用です(左図)。正常の鼓膜は表も裏も空気ですのでこの器械では圧力のグラフ(正確にはコンプライアンスカーブといいます)が富士山のようなきれいな山型になります。
しかし鼓室腔の空気が足りなくて液が溜まってくるとこの山が低くなったり頂点が左右にずれたりします。さらに鼓室が滲出液で完全に満たされるともはや山形は消えて完全に平坦な形になってしまうのです。
滲出性中耳炎の治療
滲出性中耳炎は鼓膜の裏の空気が足りないことが原因の病気ですから、足りない空気を補えばよいわけです。それには「耳管経由で補う方法」と「鼓膜に孔を通して補う方法」があります。
●耳管経由で補う方法
耳鼻科外来で行う耳管通気という処置で、耳管カテーテルというアルファベットの「J」に似た器具で鼻の穴から空気を入れる方法とポリツェルというゴムの器具で空気を送る方法、自分で鼻をつまんでいきむことで空気を補う方法、鼻で風船を膨らます器具(オトヴェント)などがあります。
●鼓膜に孔を通して補う方法
【鼓膜切開】
局所麻酔で鼓膜にナイフやレーザー光線(otoLAM)で孔を開けます。この孔から空気が出入りできますので鼓室の陰圧が解消します。しかし開けた穴は通常数日から2週間で自然に閉じます(但し特に高齢者では孔が閉じなくなる場合もあります)。
【鼓室換気チューブ】
鼓膜切開しただけでは開けた孔が短期間で閉じてしまって滲出性中耳炎が再発する場合はこの孔が閉じないようにプラスチック製のチューブを切開した孔に入れます。チューブがあると鼓膜切開の孔が一定期間保たれます。チューブには様々な種類があり、短期間(1~2ヶ月)で抜け落ちるタイプや長期間(1~2年あるいはそれ以上)入れっぱなしにするタイプのものがあります。
副作用としては鼓膜チューブが抜け落ちた後も穿孔が遺残する場合があります。特に長期留置型のチューブは孔の遺残する可能性が高い傾向があります。そのため初めは短期留置型のチューブを入れて様子を見て、チューブが抜けてすぐ再発傾向があれば次は長期留置型を入れるという方法をとります。
2015年1月に日本耳科学会他から待望の滲出性中耳炎のガイドラインが発表されました。滲出性中耳炎の治療は医療機関によって治療方針が全く違うのが実情でしたが、今後はこのガイドラインに基づいてEBMに裏打ちされた治療法をお勧めできるようになるのは喜ばしいことです。
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